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「ダムの下で眠る部屋」

コミッションワーク

半芸ハウス2階(宮城県七ヶ宿町)

2025年

素材 | 土、炭、水溶性樹脂

撮影 | 作家撮影

このお部屋の絵は、七ヶ宿ダムの底に沈んだ3つの集落を題材にし、その関連した地域から18種類の土と炭の素材で絵を描いています。
現在は町の象徴でもある七ヶ宿ダムは、今から約30年前に完成しました。このダムは、主に仙台市を中心に仙南地域の水道水として、または下流地域の洪水被害防止として大きな役割を担っています。ダム建設の話が出てから完成するまで約20年程の時間を有しました。七ヶ宿町では様々な人々の動きがあったが、中でもダム建設による移転当事者の3つの集落「渡瀬宿・原宿・追見宿」に住んでいた人々は、苦渋の決断をしました。ダム建設の話し合いが始まって、約10年に渡り徐々に一軒一軒と居住移転をし、今のダムが出来上がりました。
 
 この絵の制作にあたって、住居移転先で暮らす人のお宅を訪れ、当時の思い出や今の暮らしについて簡単なインタビューをし、その場所で土採取を行いました。その意図は、時代の流れと共に「無くならざるを得なかった故郷」を持つ人は、新しい地でどんな思いで暮らしているんだろう?という疑問と、当時の状況を知るためでした。
「故郷が無くなってしまう状況」は災害や戦争などの未曾有の出来事ですが、様々な人々が経験してきました。その状況から折り合いを付けて生きてきた先人達がいたからこそ、今の暮らしがあります。そんな人々が生きてきた証を少しでも記録として残しておく事をしたくて、絵にしました。

採取した土の絵を見ながら、沢山の人の歴史が地層の様に折り重なり、または白石川の源流からダムに流れる水の様にそこで生きてきた人々の移ろいを感じて頂ければ嬉しいです。

リサーチ内容をまとめたBOOKを部屋に設置しました。

BOOKの中を紹介

▷白石市 佐藤家 炭窯跡

佐藤家は、原宿から白石市に移りました。佐藤家は”ダム湖に沈んだ山村の知恵~山中七ヶ宿・原集落風土記~”著者 の佐藤石太郎さんの娘さん夫婦が暮らしています。白石市の丘の上にあるお宅は、広い庭に沢山の植物と猫が出迎えてくれる気持ちが良い場所です。ここの少し奥に祠が見え、そこから少し進むと4つ程の小さな山があり、よく見ると古い炭窯だと確認できました。昔、石太郎さんが使用していた釜が、形を保ってまだ残っていました。佐藤家は、移転してからも様々な人が常に訪ねてくる賑やかなお宅で、ずっと笑いが絶えないお家でした。「移転してもみんな訪ねて来てくれていたから、寂しくなかった」との事でした。移転した先でも畑を開墾したり炭焼きをしたりと、やることも山ほどありました。石太郎さんが畑にも炭窯を作っていたので、煙を浴びていた当時中学生だったお孫さんが学校の先生にタバコを吸ってると疑われたは話など、面白エピソードトークが尽きないお宅です。

▷白石市 古川家 祠の木下

古川さんは、原宿から白石市に移転をしました。当時は、20代後半だったの事。移転の際に父が、自分達の畑にあった祠も移転先へ一緒に建て直しました。見晴らしが良い白石市の古川家の庭には、沢山の植物に囲まれた中に、今でもしっかりとお祀りしています。また左側の写真は、玄関先に飾られてる石段で、一部は原宿から持ってきたものだそうです。ダムに沈む前の工事の合間に掘り起こされた石を持ってきたそうです。移転後に、同じ原出身で白石市に住む奥さんと結婚しました。古川家に行くと、原宿が蘇っている様な気持ちになりました。

▷ダムの湖畔 旧渡瀬宿

旧道の駅近くのある道を歩き山林を10分程降りていくと、このダムの辺りに到着します。七ヶ宿ダムは水質が良質だと有名で、近くで見ても透明度が高い湖が広がっています。この場所はかつて渡瀬宿があった場所で、全域が湖に沈みました。かつての面影はもう見当たりませんが、周りを取り囲む崖には、しっかりと歴史が刻まれています。採取したこのクリーム色の土は、シルト岩と呼ばれる地層で、非常に滑らかで海底地滑りによる乱流動ででき上がりました。

▷ダムの湖畔

旧追見宿ダムの湖畔にあるこの場所は、元々は旧追見宿がありました。ダムの辺りまで車で入れるこの場所は、釣り人も利用しやすい場所に位置しています。そして貴重な土が取れる場所でもあります。ここの崖をよく観察すると、緑色の地層がむき出しになっています。「グリーンタフ」と呼ばれる地層で、約500万年前の地球のエネルギー活動で、秋田から新潟にかけての断層に見られる地層です。この地層は、海底火山の噴火による火山灰が火山活動により熱水で変質を受け、 熱水変質作用により有色鉱物が、緑泥石という緑色の鉱物に変わる現象で出来ました。この色は、この地が大昔は海底に沈んでいた証拠でもあります。かつて海底だったこの場所は、いつしか陸になり人が住み着き、そしてまたダム建設によって水に沈み、今があります。何気なく見ている風景も大きな歴史の積み重ねによってできていて、それが偶然の気候の変化や人の営みによって今の風景が作られています。